第9講 飲酒意志を上げない
そもそも「飲酒意志はどこにあるのか」というと,
それは患者の内側ではなく外側だと言える。
依存症治療において,渇望を呼び起こす要因を「引き金」と呼ぶが,
先の宇宙旅行の話と同様,
患者は「絶対に飲めない」場面や状況に身をおかれたなら,
当人の飲酒意志が上がることはない。
そのため,ここでの治療目標は「渇望に負けない自分を作る」ではなく
「渇望が出にくい環境を作り続ける」ことである。
次に「飲酒意志を上げない」具体的な治療について紹介する。
患者は診察ごとに「一行日記」と呼ばれる飲酒について記した日記を持参し,
主治医は日記の内容と,患者が「THE・TPO」に基づき設定した「マイルール」の遵守(○・△)について確認する。
スリップの記載(×)があった際は,叱るのではなく,
記載できた事実を称賛し,「マイルール」の見直しや,患者の治療意志を確認する。
患者がスリップした際に,まるで「癌が再発」したかのごとく騒ぎ立てる家族は少なくない。
しかし,問題の本質は「患者がスリップをした後に,飲酒が止まらなくなる」ことであり,
たとえスリップしようとも,そのタイミングで当人が主治医や家族に報告できたならば,
それは治療が失敗したのではないと言える。
そして,もし,この一行日記が中断されたならば,改めて疾病教育を重ねていき,
患者の「断酒意志」を上げることで再開へつなげる必要がある。
(一行日記については、第10講で紹介します)
(精神神経学雑誌 123: 500-505, 2021)
プラセボのレシピ:第423話
当院はカウンセリング治療を大切にするメンタルクリニックです。
うつ病や不安障害、依存症(ギャンブル依存症 性依存症 クレプトマニア 薬物依存症)、発達障害やADHDの治療を受けることも可能です。
コメント(0)
コメントを受け付けておりません。