第二講 何をもって「依存症」か
初診時に「どのくらい飲むと依存症なのか」と問われることは少なくない。
著者はかねてより,人の幸せとは,
「大好きな人と大好きなことをすること」「大切な人が大切にしていることを大切にすること」
と考えている。
それゆえ「お酒によって大切な人や大切なことを犠牲にしている」と感じながらも飲酒していたなら,
それは精神の病と言えるだろう。
しかし,「どのくらい飲むと」について,相手の納得する答えを提示することは難しい。
なぜなら人は「自身を変えようとする相手」を強く恐れるからである。
治療ガイドラインや自記式の質問紙を見せたところで,
「医学的にはそうかもしれないが,自分にはあてはまらない」
と反発されてしまうのである。
もっとも,初対面の相手から
「あなたは依存症の診断基準を満たしており治療が必要です」
と言われ,
「わかりました.よろしくお願いします」
と答えたなら,それは依存症ではないかもしれない。
そのため著者は,「どのくらい飲むと」の問いに対して,逆に質問をすることで,そらすようにしている。
例えば,患者がお酒を飲む理由について「ストレス」を挙げていたなら,
「暇なときや嬉しいときは,飲まないのですか」
と尋ね,
「美味しいから」を挙げていたなら,
「美味しくないお酒にお金を払って飲んだことはありませんか」と尋ねるのである。
人はいつだって,自身の問題を「まだ,ギリギリ大丈夫」と考える傾向がある。
そのため,患者が底つきを体験することなく病識を育むには,患者と治療者が一体となり
「自分はなぜ酒を飲むのか」
について哲学的な態度で臨む必要があると言える。
(精神神経学雑誌 123: 500-505, 2021)
プラセボのレシピ:第419話
東京都豊島区の心療内科・精神科:ライフサポートクリニック
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