そして、もう一つの行動療法が「二次ブレーキの設定」です。
これは、本来ブレーキの役割を果たす前頭前野が「引き金が引かれ機能停止を起こすその瞬間に、取るべき行動を決めておく」というものです。
具体例をあげてみますと、いつもパチンコ店の前を迂回して通勤しているギャンブル依存症の方が、出張先でパチンコ店を見つけてしまった際、患者さんは「あっ」と思うわけですが、
その瞬間に「すぐさま後ろを向いて逃げる」とか「家族に電話する」など、「何をするか決めておく」というのです。
馬鹿らしいと思われるかもしれません。
しかし、これは非常に価値があるのです。
なぜなら、多くの依存症の方は、この「あっ」と思った瞬間に取るべき行動を決めておらずに迷うからです。
パチンコ依存症であれば、「とりあえず店内に入ってみよう」とか、痴漢であれば「とりあえず対象のそばへ寄ってみよう」と迷いが生じ、あとはドミノ倒しのように行動が連鎖していき再発するのです。
しかし、事前に引きがねに暴露した際の取るべき行動を決めておけば、淡々とその行動を取ることで再発は防止できるのです。
もちろん練習も大切です。
私は過去に、ギャンブルの患者さんに「パチンコ店を見つけてしまったと仮定してダッシュする練習」をして貰ったこともあります。
社会で生活している限り、引き金が引かれてしまうリスクをゼロにすることはできません。
「ラッシュには絶対に乗らない」と決めていても、人身事故や大雪の影響で社内が混んでしまうことはあるわけです。
であるなら「そのとき何をするのか」を事前に決めておき、練習もしておけばよいのです。
これは、大層なものでなくても構わないのです。
痴漢であれば、最も簡単な二次ブレーキは目をつぶることです。
・少しでも車内が痴漢ができそうな状態になったなら、次の駅に着くまで目をつぶる
・次の駅に着いたら理由の如何に関わらず電車から降りる
こうしたことを決めておくだけで、「ラッシュに乗らないと決めていたが車内が混んでしまった」なんて場面でも、再犯を繰り返さずに済むのです。
私が診てきた患者さんの中で、最も感心させられた二次ブレーキは「防犯ブザー」でした。
その方は「もし混んでしまった時に」と、自身で防犯ブザーを用意され「自分で引く」と決めていたのです。
彼は、かれこれ〇〇回、痴漢で逮捕歴がある方で、刑務所にも数回入っていたのですが、「よく考えられたなあ」と思います。
さすがに防犯ブザー鳴り響いたら、痴漢どころじゃなくなりますからね。
驚くべきことに、彼はその後、本当にブザーを引くことで、二度も自身のピンチを乗り切られたのです。
では、これをもちまして性依存症の教育講演の終わりとさせて頂きます。(了)
プラセボのレシピ:第416話
東京都豊島区の心療内科・精神科:ライフサポートクリニック
当院はカウンセリング治療を大切にするメンタルクリニックです。
うつ病や不安障害に加え、依存症や発達障害の治療を受けることも可能です。
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