プラセボのレシピ

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痴漢の「認知のゆがみ」は嘘である ?

2018年11月19日 · コメント(0) · 依存症

私の外来には、

「痴漢を繰り返したため刑務所に入り、出所後に家族の勧めで来院した」

といった方が日常的に訪れます。

彼らが「家族の勧めで」とあえて述べる理由は、

・自分としては治療の必要性は無いと思う
・やっと釈放となった矢先に通院なんて面倒

といった気持ちの表れなのですが、

そこで私が

「再犯を繰り返してきたのに、なぜ治療が不要と思うのですか」

と尋ねるとほとんどのケースで、

・刑務所内で依存症の治療プログラムを受けたため、もう治療は十分である。
・自分が痴漢をしてきた理由は「認知のゆがみ」を抱えていたことが分かった。
・過去の自分は「世の中には触られたい女性がいる」というゆがんだ認知を抱えていた。
・今は「それが間違いであり、そんな女性はいない」と理解している
・二度と痴漢はしないし、今後は〇〇の仕事につき、××な人生を送るつもりである。

といった答えが返ってくるのです。

もちろん彼らの「もう痴漢はしない」という訴えが本音であることは、ひしひしと伝わってきます。

それは、激しい二日酔いのさなかに「今夜は飲むぞ」と考える人がいないように、

やっと刑務所から出たさなかで「また痴漢をしたい」と考える人もまたいないからです。

しかし、自身が痴漢を繰り返してきた理由について、

「『世の中には触られたい女性がいる』というゆがんだ認知(誤解)が原因だった」

と考えている限り、彼らの再犯リスクは極めて高いままなのです。

なぜなら私の外来には、

「刑務所内で認知のゆがみを修正したにも関わらず、再犯してしまった」

といった方もたくさん訪れるからです。

痴漢を繰り返してきた方が、自身の問題行動の心理背景について、

「『痴漢されたい女性もいる』という認知が原因であった」

と考えていることは、

パチンコ依存症の人が、借金を繰り返してまでパチンコが止められなかった理由について、

「『パチンコで勝ち続けられる人もいる』と誤解していたから」

と自己分析するのと同じくらい的外れなものであり、再犯や再発の予防には全く役立たないのです。

(真相はともかくとして、世の中に「痴漢されたい女性」や「パチンコで勝ち続ける人」がいたならば、彼らの認知はゆがんでいないからです)

事実、そんな場面で私が、

「でも、SM好きな人がいるように、触られたい女性だっているかもしれませんよ」
「ネットの掲示板には、痴漢願望を抱えた女性の書き込みもあるようですよ」

などと言うと、とたんに彼らは、

「やっぱりそうですよね」
「先生もそう思われますか」

などと話すのです。

これこそが「否認」と呼ばれている依存症の主症状なのですが(自分が自分についてしまっている嘘に気がつけない)、この点について彼らに非はないと思うのです。

なぜならこうした否認は、性依存症について無知な治療者から、無効な治療(認知行動療法)を受けた結果として育まれたものだからです。

では、有効な(再犯を防ぐ)治療とはどんなものなのか。

それは彼らが思い込んでいる「触られたい女性もいる」といった認知を正そうとするのではなく、

(患者さんの中には、「若い頃に痴漢した相手と、その後、交際した」と話す人もいます)

「もし、そうした女性がいたとしても、触られたい相手は『あなた』なのか」
「いたとしたなら、失敗せずにその女性を選別することができるのか」

こうした質問をしていくことで、患者さんの否認を壊していくのです。

加えて、自身を魅力的と思っていたり、そうした選球眼なるものを備えていると考えている人に対しては、

「痴漢されたい女性であっても、触られた後に『痴漢です』と声をあげることで多額の示談金を手にできるのであれば、

少なくとも私がその女性であったなら声をあげると思うのだが、それについてどう思うか」

こうした質問をすることで、自身が痴漢をやりつづけていた理由について、

「触られたい女性がいると誤解していたからではなく、あなたが知らない行為依存症という病の可能性がある」

と伝えていくことが大切なのです。

プラセボのレシピ:第353話

※ 依存症の治療は言葉にするのが難しく、またこれといった教科書などもありません。当事者やその家族はもちろんのこと、治療者すらも困っているのが現実です。このブログはそんな方々に向けて「少しでも力になれれば」といった思いから、日々の臨床での知見や気づきを書いています。

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