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アルコール依存症 ②

2018年04月29日 · コメント(0) · 依存症

人はアルコールを長年に渡って摂取すると、脳細胞がパンチドランカーのごとくダメージを受け、アルコールに関してのみ「飲まない」という行動を「病気の症状として」とれなくなってしまう。

そして、この脳細胞のダメージは不可逆性(回復することがない)であり、仮に一定期間の断酒をしたところで、再飲酒をしたならば症状はどんどん悪化していく。

ボクシングの世界に「落ちグセ」という用語があるのをご存知だろうか。

脳に物理的なダメージが蓄積したボクサーが、ある日のダウンを境に、ほんの些細な衝撃(相手からのパンチ)で、簡単に「落ちる(ダウンする)」ようになってしまう。

脳のCTやMRI検査をしても何も異常は検出されないし、日常生活でも特に不都合は生じない。

そこで選手やトレーナーは、試合はもちろん、実践形式の練習も控えて様子を見るのだが、しばらく期間を置いても、やはり同様の症状は出現してしまう。

「落ちグセ」が出た時点でその選手は引退を決意すべきなのだ。

その事実を隠したり、取り繕って試合を続けたなら、その先に待っているのはパンチドランカー(慢性外傷性脳症)だからである。

そうした状態で選手が試合に勝つことは難しく、またよしんばタイトルを奪取できたとしても、引退後に

頭痛、手足の震え、不眠、うつ、性格変化(易怒性など)、記憶障害、便や尿の失禁、……、

といった症状に、一生涯悩まされることになる。

私もこうした元ボクサーやK1選手を診察したことがあるが、本当に悲惨である。

とある論文によると、ボクサーであればプロ歴が15年を超えると、パンチドランカーとなるリスクが上昇するそうだ。

少し話がそれたが、実はアルコールによる脳の障害も、これと極めてよく似ているのである。

以下は、WHOが出しているアルコールが引き起こす精神疾患をまとめた表である。

ICD10コード

F10:アルコール使用<飲酒>による精神及び行動の障害

 病名 ICD10コード
1 アルコール中毒せん妄  F100
2 急性アルコール中毒  F100
3 宿酔  F100
4 単純酩酊  F100
5 病的酩酊  F100
6 複雑酩酊  F100
7 アルコール乱用  F101
8 アルコール依存症  F102
9 アルコール離脱状態  F103
10 アルコール離脱せん妄  F104
11 アルコール幻覚症  F105
12 アルコール性嫉妬  F105
13 アルコール性精神病  F105
14 アルコール性妄想  F105
15 アルコール性コルサコフ症候群  F106
16 アルコール性多発性神経炎性精神病  F106
17 コルサコフ症候群  F106
18 アルコール性フラッシュバック  F107
19 アルコール性残遺性感情障害  F107
20 アルコール性持続性認知障害  F107
21 アルコール性遅発性パーソナリティ障害  F107
22 アルコール性遅発性精神病性障害  F107
23 アルコール性認知症  F107
24 アルコール性脳症候群  F107
25 アルコール性躁病  F107
26 うつ状態アルコール中毒  F107
27 慢性アルコール性脳症候群  F107

 

突然、こんな表を見せられても「何のことやら」といった感じだとは思うが、アルコール依存症は8番目にコードされている。

そして、アルコール依存症の恐ろしい点は、その合併症にもある。

たとえば、

10番「離脱せん妄」は、酒が切れると「体中に虫が這いずり回る」といった幻視体験など

13番「精神病」は、「自分の悪口が聞こえる」といった幻聴など

14番「妄想」は、「自分が他人から狙われている」といった被害妄想など

23番「認知症」は、記憶障害であったり、新しいスキルが習得不能であったり、など

こうした症状が酩酊時や離脱時に出現して、アルコールを摂取している限り不可逆性に進行していく。

過去に上手くお酒と付き合えた人が、アルコール絡みで様々なトラブルを起こすようになってしまうのだ。

そして、仮に断酒を継続できたとしても、その後は残遺性障害と呼ばれる後遺症も待ち受けている。

19番「残遺性感情障害」は、重度のうつ症状に苦しむ(自殺のリスクも高い)など

21番「残遺性パーソナリティー障害」では、易怒性(すぐキレる)、自己中心的な性格、他罰的になる、など

これらによって、重度のうつ状態を余儀なくされたり、病状としての自己中心的な性格が災いし、周囲から孤立してしまうケースも多い。

アルコールが中高年の男性の自殺と大きく関係している理由はここにあるのだ。

なぜ「お酒は20歳になってから」なのか。

それはボクサーがプロになって15年が経過するとパンチドランカーになるリスクが上昇するのと同様で、

お酒を飲むのが遅ければ遅いほど、アルコールが脳に与えるダメージも少なくなり、依存症を患うリスクが下がるからである。

精神科医が最も治療困難な疾患の一つに、アルコール依存症がある。

この疾患は、一定期間、一定量の飲酒行動を継続すると、誰もがかかりうる。

そして、かかったが最後「分かっちゃいるけど、やめられない」という症状が一生涯続いてしまうのである。

③ へ続く。

プラセボのレシピ:第339話

 

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