プラセボのレシピ

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続、薬物依存症

2015年11月01日 · コメント(0) · 社会精神医学

「薬物(アルコール)依存症を治すには、どうしたらいいでしょうか」

高部あいさん、ASKAさん、小向美奈子さん、酒井法子さん、薬物依存症の事件報道がなされると、こうした相談が専門外来には倍増します。

依存症については、これまでもこのブログで何度か書いてきましたが、今日は、少し違った視点で考えてみたいと思います。

多くの人(家族や周囲の人)は、依存症の人に対して、

「どうやったら止めさせられるのか」

このような視点でばかり考えてしまいます。

しかし、実は治療の現場においては、

「なぜ、その人は依存症になってしまったのか」

そこから丁寧に診ていくことがな大切なのです。(依存の形成過程)

人は、依存性のある物質を体内に摂取すると、多幸感を得ることができます。

しかし、だからといって、

「たった一度でも手を出したら終わり」

というわけではないのです。

確かに、動物実験でサルに覚醒剤を投与するとほんの数回で簡単に依存症を作り上げることができます。

しかし、人においては、覚醒剤の依存率はたった一割程度というデータが出ているのです。

なぜ、人はサルとは異なるのか。

それは、人が「飽きる」生き物だからです。※ 1

一生遊べる大金を手にした、ベンチャー企業の社長さんをイメージしてみてください。たしかに、それこそ始めは、豪華に、そして派手な生活を送るかもしれません。

しかし、では彼らがそうした生活を毎日、一生涯送り続けるのかというと、そんな可能性はずいぶんと低いのです。

つまり、薬物依存症になってしまう原因は、薬物摂取による多幸感だけでは説明がつかないのです。(薬物の多幸感も、キャバクラやフレンチの多幸感と同様に飽きうるのです)

では、なにが原因で、人は依存症になってしまうのか。

それは、実は、その人が、

「幸せではない」

という主観を抱えていたからなのです。

実生活において強い苦痛が存在し、そして、その根本的な解決は放置したまま、

「薬物やアルコールを用いて、感情の痛みのみを応急処置として自己治療する」

こうした行為が継続された結果、人は依存症に陥ってしまうのです。

・誰が考えても売れない商品を売るよう強要され続けた営業マン

・夫や姑のストレスに苛まされ、誰にも相談相手がいなかった専業主婦

・「いつかはプロに」と夢見た結果、職業的な社会スキルを磨く機会を逸した中年男性

・どんなに努力をしても、なかなか結果に結びつかないアスリート、芸能人

・必死に会社の将来を考えているにも関わらず、社員が皆、身勝手な経営者

繰り返しになりますが、彼/女らは、「幸せではない」のです。

そして、それに加えて、彼/女らは孤立をしているのです。

結果、人に悩みを相談したり、助けを求めたりする事を諦め、薬物やアルコールに依存をしてしまうのです。

冒頭の質問に戻りますが、

「薬物(アルコール)依存症を治すには、どうしたらいいでしょうか」

これは、とても難しい問題です。

しかし、

「薬物やアルコールが、いかに本人を不幸にするか」

こうしたことを、懸命に説くことだけはしてはいけません。

なぜなら、そんなことは、当の本人も十二分に理解しているからです。

「止めたいのに止められない」

そんな状態にある当事者は、こうした発言を周囲の人が口にすればするほど

「どうせ自分は誰からも理解して貰えない」

と感じてしまうのです。

結果、ますます、本人の気持ちは、「信用のできない人」から、「決して裏切ることのない物質」(薬物やアルコール)へと移って行くのです。

そうではなく、まずは家族や治療者が、

「いかにその人が、現実において、薬物やアルコールを使い続けてしまうほどの、耐えがたい孤独や不幸を感じていたのか」

そこに耳を傾けることで初めて、治療の第一歩が始まるのです。

プラセボのレシピ : 第287話

※ 1「無理矢理、彼にクスリを打たれました」なんて報道がされたことがありましたが、だからといって、それが主たる原因で突然、依存症になってしまう確率は極めて低いと思われます。

※ 2 国立精神神経医療センター 依存症研究部 部長の松本俊彦先生のご講演を参考にして書きました。

 

 

 

 

 

 

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